【不思議な話】子供の頃に近所の個人商店でよく変わった服装のお婆さんを見掛け、大人になってから手の甲が黒かったのは『ハジチ』という墨だと知った。そのことを母親に話すと…
昭和で、私が保育園児くらいの時に、母親と近所の個人商店に散歩がてら買い物へ行った事がある。
個人商店と言っても、形態が独特で、正方形のこじんまりとした家の前面を開放していて
畳敷きの部屋にコの字に商品が並べられており、欲しい商品をお店の人に言うと、取ってくれるやり方だったと思う。
母はお店の中年女性と顔見知りらしく、話に花を咲かせていたが、幼い私にとって面白い話ではなく、早々に私は退屈してしまっていた。
解放された部屋に身を乗り出すようにして、商品をなんとなく眺めていると
いつの間にか奥に小柄なおばあさんが座っていた。
お婆さんは何を言う訳でもなく、ニコニコと笑顔で私をただ見ていただけだった。
このお婆さん。
薄い黄土色に黒色の線が縦に入ったバサージと言う着物に、カンプー(頭のトップでまとめた髪型)という
当時でもテレビ番組や沖縄の踊りなどでしか見ない格好で、子供ながらに「今時珍しいな」と思った。
それと手の甲が黒かったので、「何かの病気だろうか」と、あまりジロジロ見てはいけないものだと思って、あまり見ないようしていた。
そのお店へ行ったのはこの一度きりだったが、小学校へあがり、学校への行き帰りを母の車の後部座席から
あのお婆さんはいないだろうかと見ようと思っていたのだが、所詮は子供だ。
徐々に忘れていった。
大人になってから、手の甲が黒かったのは、実は「ハジチ」という女性だけが彫るイレズミだったのだろうと思っていたのだが
よくよく考えたら、そのハジチ文化自体が既に廃れており、それを施してる女性は、母が子供の頃には既にいなかったと聞いている。
それでは私が見たお婆さんは一体いくつだったんだ?と謎が残った。
ある日、この事を母に話した所、あの店には、当時中年女性とその家族しかおらず、ハジチを施したお婆さんどころか、年寄りがいない家だったそうだ。
じゃあ私が見たあのお婆さんは誰だったのだろう?
母に言わせると、保育園児の記憶なんて曖昧なのだから、勘違いだろうという事だったが
私は今でもあのお婆さんの、ニコニコした柔らかい笑顔を思い出せるんだ…。